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ITプロマネのブログ

IT業界、プロジェクトマネージャーのブログ

自給自足4 幻想

ここでの食生活は健康そのもの、といえば聞こえはいいが、結構大変だ。

お米と味噌、そば粉はふんだんにある。
暖かい季節はいろいろな野菜がとれるが、
寒くなると野沢菜、切り干し大根ぐらいしかなくなる。
村を歩いていると、時々声をかけられる。
この肉もう売れないからもっていきな、と。
よく見ると黒ずんでいていかにも売れそうにない。
しかし、肉は黒ずんだあたり、つまり酸化が始まって、
腐りかけぐらいがうまいのだ。ちょっと得した気分。
こんな風にただでもらったときや、
お客さんが差し入れてくれたときぐらいしか、肉にはお目にかかれない。

お米もおいしいがここの味噌がまたうまい。
ある時ここの先生が訪れたお客さんに味噌の作り方を説明していた。
先生曰く、とにかくこつは裸足で丹念に味噌を踏むことだと言っていた。
ぞっとした。
実は先生は水虫なのだ。
まさか、水虫の隠し味?

どのくらい続いたことだろう。
ろくな食べ物がなくなり、野沢菜と切り干し大根責めの、日々が続いた。
まかないの人はとても料理がうまい。
それがせめての救い。
漬け込んだ野沢菜を戻して、しょうゆ、みりん、
砂糖などを絡めて炒める。
これをご飯にたっぷりかけて食べる。
七味をふるとなおおいしい。
絶品。

野良仕事を終えて昼食につくと、なんと、
スパゲッティが盛ってあった。
もう、涙が出るほどうれしかった、
それが切り干し大根の炒め物と気づくまでは。
幻想ってみるものだと初めて実感した。

たまにはケーキを食べたいと女の子が言い出した。
お菓子などを食べることのない僕も、
この時ばかりは心底食べたいと思った。
材料はほとんどそろっていたが、問題は卵だった。
鶏は10羽ほどいたが、なぜか、1日に1個産むか産まないか。
まれに、2個産むこともある。
なぜこんなに産まないのか。
人間もそうだが、きっと彼らもろくな物を食ってないせいだと思った。
違った。
養鶏場で使い物にならなくなった鶏をただでもらってきているからだった。
そもそも卵を産める状態ではないのだ。
その上、ここの先生は体が悪く、唯一の栄養源として、
まかないの人は、10羽が産んだ一つの卵を毎日先生のもとへ。
これではいつになっても、ケーキにありつけない。
僕たちの結論はでた。先生には申し訳ないが、
まかないの人より先に卵をとること。
その当番に僕がなってしまった。f:id:one_piece_of_leaf:20170313164852p:plain
日々野良仕事があるのだが、みんなの合意のもと、
一日中、鶏小屋付近にいなければならなくなった。
使命は、まかないより早く、卵を見つけ、気づかれる前に、盗むことだ。
しかし、これほど退屈な仕事もない。
つい、鶏にあたってしまう。早く産まんかい。

こうして、できたケーキは、とてもまずかった。
結局、5人分のケーキの材料に2日がかりで盗んだ卵1個。
うまいはずはなかった。